令和5年 第6回日本舞踊 未来座 =最(SAI)=

令和5年度 第6回日本舞踊 

未来座 = 最 SAI =

舞姫コラム

column

第5回 「かぐや姫と舞」

これまでお話を進めてきました中でも、とりわけ「舞」には、単に音楽やリズムに合わせ身体を動かすという意味での「ダンス」として扱うには、到底解決できない私たち日本人の精神性が存在し、また、祈り、儀式、また「舞」を行う者には、必ず様々な意味で「姫」としての存在でなくてはならない理由についてもお話をしてきました。


さて、よく誰でも子供の頃から親しんできた日本の昔話の中で、まず「姫」という存在をキーワードとして考えてみますと、特に有名なお話といえば、やはり、「月」と「かぐや姫」の物語が連想されるのではないでしょうか。しかし、実は「かぐや姫」の伝承や昔話の内容は、地域によっては異なる内容が伝承されているのですが、よく絵本などで紹介されている代表的なものは、日本最古の物語と言われている「竹取物語」が有名でしょう。


ではなぜ、日本最古の物語かと言われているのかと言いますと、その由来は平安時代の中期、紫式部が書いた「源氏物語」の中で、「物語の出で来はじめの祖『竹取の翁』」と書いていることに由来します。作者は現在も不明で、諸説あり、例えば藤原氏の系統の高貴な人物だろうとか、また、当時の女性が用いた仮名文字を使ってはいるものの、漢学の才が認められるような貴人の生活が事細かく描かれていることなどから、作者は、男性ではないかなどという説もありますが、今も誰なのか解明できていません。


また、登場する人物も西暦672年に起きた壬申の乱に登場する実在の人物が登場しているとされており、いずれにせよ物語の舞台は、その当時の都近辺の竹林ではないかなどとも言われています。しかし、成立年代も未だ解明されておらず、また原本は存在せず、およそ14世紀、室町時代の初期、南北朝の時代の奥付がある写本が最古のものと言われています。名称も、現在では「竹取物語」と言われていますが、実は通称で、古く平安時代には「竹取の翁」とか、鎌倉時代以降には「竹取」など、様々な呼び名があったようです。


この物語ですが、実に摩訶不思議なストーリーで、月からきた「姫」が人間の翁と嫗に育てられ、再び月へと帰ってしまうというお話ですが、どう考えても「かぐや姫」は月から来た異星人、いわば宇宙人と人間との交流が昔あったことが語られているのですが、実は日本だけでなく、世界中の昔話には、異星人との交流、それも「かぐや姫」のような美しい女性、またどの国や民族でも必ず月から来たという話が多く存在するようです。


「竹取物語」の内容を簡単にお話しますと、今は昔、竹林に入り竹を取ることで生計を成していた一人の翁、その名も「讃岐造(さぬきのみやつこ)」と言い、妻の嫗と静かに暮らしていました。この讃岐造に由来する、現在、奈良県北葛城郡広陵町に鎮座する「讃岐神社」は、讃岐造の住まいだったとされていることから、「竹取物語」は奈良広陵町付近が舞台とも言われています。

さて、ある日、讃岐造が竹林で作業をしていると、一本だけ光輝く竹があり、翁が近づいてみると、その竹の間に、わずか一寸(約9㎝)の可愛らしい姫が座っていたそうで、翁はその姫を持ち帰り育てることに。しかし、不思議なことに僅か3ヶ月で大人に成長したというのです。そこで翁は、朝廷で祭事を司る氏族であった御室戸斎部(みむろどいんべ)に、姫の名前を命名してもらい、「なよ竹のかぐや姫」と名付けられたそうです。なよ竹のかぐや姫は、それは輝くばかりの美しさで、家中もかぐや姫の美貌と光で暗い場所がないほどとも称されるほど。翁も嫗も喜び盛大に宴会を開催したのですが、そうなると、近隣からかぐや姫の美しさを聞きつけ、求婚しに来る男性達が大挙して屋敷を訪れることになってしまいます。

しかし、かぐや姫は誰とも会わず、ましてや姿も見せなかったことから、昼夜を問わず屋敷を囲む塀に穴をあけ、そこから見えもしない屋敷内を覗く者や、会えるまでは帰らないと、夜になってもなかなか帰らない頑固な者や、毎日通い続ける者まで現れたそうで、一説には、そうした者を称して「夜這い」などいう言葉になったとも言われているほどです。


しかし、大抵の男はその内諦めるものですが、五人の公達は諦めませんでした。その五人とは、石作皇子(いしづくりのみこ)、車(庫)持皇子(くらもちのみこ)、右大臣、阿部御主人(あべのみうし)、大納言、大伴御行(おおとものみゆき)、中納言、石上麻呂(いそのかみのまろ)、と言う身分の高い公達で、五人とも諦めきれず、何日も通い詰めていたのですが、さすがその姿に翁も根負けし、かぐや姫を説得し、ようやくそれぞれの公達毎にかぐや姫が所望する宝を持って来られたら求婚に応じると返答したのです。しかし、結局、五人が持参したものは偽物ばかりで、本物を持参することができません。そこへ、かぐや姫の噂を聞きつけた帝(みかど)が、狩を装いかぐや姫に対面することができ、結婚こそできなかったものの、やがて和歌や手紙を通じ心を通わすことになります。


しかし、それから三年後、ついにかぐや姫が月へ帰る満月の夜(中秋の名月、現在では月見の週間になっています)が来てしまいます。帝は大軍勢で翁の屋敷を警護させますが、天空より天人が雲に乗り舞い降り、その様子はさながら阿弥陀如来が雲に乗り天上楽や天上の舞を舞う天人と共に空を飛ぶ、まさにUFOのような「飛車」に乗り降臨されたようで、月からの使者は、地上から5尺(約1.5m)浮いた姿で屋敷内に入り、帝の警護たちが抵抗しようとしても皆倒れてしまったそうです。天人の王が翁に言うには、そもそも月の世界でかぐや姫は罪を犯し、その罪で僅かな間、穢れた世界、地球に住まわしたのだという事の顛末を語り、罪の償いは終わったので月の世界へお戻しするというのです。そして、天女の一人がかぐや姫に天人が羽織る「羽衣」を渡し、それを羽織ると地上の穢れた世界のことは全て忘れてしまうそうで、かぐや姫は、それを羽織る前に、まず翁と嫗に礼を述べ、そして心を通わした帝には、穢れた人間の世界の食物の毒を消すという薬が入った箱を自らはその薬箱を開けることなく帝へ渡し、そして最後に歌を贈るのです。


「いまはとて 天の羽衣 着る時ぞ 君をあはれと おもひいでぬる」


この歌は、かぐや姫が帝に贈った別れを惜しむ恋の歌ですが、かぐや姫はその後、飛車に乗り天空へと舞い上がり消えていきます。また、帝がかぐや姫からもらった箱には不老不死の薬が入っていたのですが、かぐや姫を失った帝は、かぐや姫のいない世界で、どうして長生きする意味があるだろうと、天空に一番近い場所へその箱を家来に持参させ、そこでその薬を焼いてしまえと命じ、天空に一番近い、日本で一番高い山の頂上でその薬を焼いたところ、その山の火口は煙を吐いたとされ、その山を「不死山」と呼び、今では「富士山」と呼ばれるようになったと言われているのです。


さて実は、この「竹取物語」のお話は、一見荒唐無稽なストーリーのように思えますが、実は、とても科学的であり、また我が国最古の歴史書である「古事記」にも、かぐや姫と思われる人物が実在?しているのも不思議なところです。


まず、かぐや姫が僅か3ヶ月で大人に成長する過程も、少し大げさかもしれませんが、例えば、アイシュタインの相対性理論を用いて考えてみると、宇宙と地球の時間には重力により違いがあり、当然月の方が時間が経つのが早く、月からきたかぐや姫は月の時間で成長してしまう。要するに地球外から来たものは時間のスピードが違うため、早く成長してしまい、かぐや姫はわずか3ヶ月で20歳になってしまうということも考えられます。


また、我が国最古の歴史書でもある「古事記」には、その後成立する「日本書紀」には登場しない「迦具夜比売命(かぐやひめのみこと)」という女神が登場しています。父は、天孫降臨した「瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)」、母は、富士山の女神でもある「木花開耶姫(このはなさくやひめ)」とされ、信仰によっては「かぐや姫」自身ともされています。因みにその時代の帝というと、垂仁天皇(すいにんてんのう・第11代天皇、凡そ3-4世紀の卑弥呼前後にいたとされる大王で実在も不明)かもしれません。また、不思議なことに、「迦具夜比売命(かぐやひめのみこと)」の祖母に当る嫗、曽祖母の名は、竹野媛と言い竹に由来し、翁に当る叔父は、讃岐造に関連する讃岐垂根王という実在の人物とされ、父の大筒木垂根王も竹細工の名工として知られ、なおかつ一族は月神を信仰していたというのです。


また、「迦具夜比売命(かぐやひめのみこと)」には子はなく短命だったとも言われ、もしかしたら、月から来た姫の話は本当だったのかもしれません。さらに、「月神信仰」をめぐりお話をしますと、現代の日本では9月、太陰太陽暦では8月15日の中秋の名月、仏教では、阿弥陀如来が下生される日とされ、また、世界的には、一説に聖母マリアが昇天された日という説があるほど。さらに、「かぐや姫」が天空に帰る際乗った「飛車(ひしゃ)」は、大凡神輿(みこし)と同じようなものですが、例えば古典文学には、「今昔物語」や長編物語の「宇津保物語」でそれを「鳥舟(とりふね)」と記述していたり、平安時代の説話集「日本霊異記」には「楠舟(くすふね)」とも書かれています。また、舟は死者を異界へ運ぶという考え方が日本や世界中にあり、例えば日本では葬式で棺桶に遺体を入れ旅立つことを「舟入り」と言ったり、海外でも、海賊を描いたあの有名な映画「パイレーツオブカリビアン」でも、物語の主軸となる海賊船ブラックパール号は死者を運ぶのが役割でした。


様々に私たちの日本をはじめ、世界でも太古の人々が、月の世界や異星人との交流の物語を持ち、また、その主人公は必ず「姫」であり、またその「姫」は宇宙から来て、また帰るわけですが、その宇宙を表す言葉こそ「無」とその同意語である「舞」であることは前回もお話をした通りです。そのように考えると「かぐや姫」は、まさに「舞姫」ということになります。


次回は、「かぐや姫」から「羽衣」の伝説と「舞姫」に関するお話へと進めていきます。

主催・お問い合わせ

公益社団法人 日本舞踊協会

03-3533-6455(平日10時~17時)